最近増加傾向にある舌がん(口腔がん)について述べたいと思います。
口腔がんとは、口の中とくちびるにできる「がん」のことです。
口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺(耳下腺を除く)に発生するものが含まれます。
いずれの場合でも口の中に「できもの」や「しばらく治らない傷や荒れ」などとして自覚されることが多いです。また、他の臓器のがんや悪性リンパ腫や白血病などの症状が口腔内に出現することも少なくありません。
口腔がんは、我国においては患者数が増加傾向にあります。
好発年齢は60歳代、男性の方が女性より多いとされています(男性:女性=3:2)。
口腔がんは、口の中の歯以外のどこにでも発生します。
ただ発生しやすい場所があり、日本人の場合で言えば、舌が最も多く40〜60%、以下、上下の歯肉、口底、頬粘膜、口蓋の順となっています。
舌の中では、舌のへり(側縁部)に最もできやすいです。
口腔がんは口の中の粘膜表面から発生するタイプ扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)が最も多く、約80%を占めています。
残りのうち10%が唾液腺から発生するタイプ、10%が肉腫や悪性リンパ腫などです。
口腔がんの発生についてはさまざまな要因(発がんの因子)が作用しているといわれています。
多くの場合、直接的な原因を見い出すことは難しいですが、喫煙と飲酒は危険因子とされています。また慢性的に刺激が加わり続けることも発がんにつながることがあります。
慢性的な刺激源になるものとしては虫歯によって欠けたり、詰め物やかぶせものがはずれたままになったりして、とがっている歯、適合が悪い入れ歯などがあります。
口腔がんにはその前兆となる口の中の状況があることが知られています。
将来がんになりやすい組織ということもでき「白板症」と「紅板症」がこれにあてはまります。
このうち「白板症」の「がん化率」はわが国では約10%とされています。われわれの教室の調査では、舌にできた「白板症」はとくに注意を要するという結果が出ています。
口腔がんはその発生した場所(これを原発巣と言います)で増大するとともに「がん細胞」がリンパや血液の流れにのって原発巣以外の場所にたどり着き、そこで増殖を始めることがあります(転移と言います)。
リンパの流れに乗った場合の転移を「リンパ節転移」といい、口腔がんの場合は頸部のリンパ節に高頻度に転移をします。
血液の流れに乗った場合の転移を「遠隔転移」といいます。
この場合は、からだのどこに転移してもおかしくありませんが、口腔がんの場合の「遠隔転移」の好発部位は肺です。
大学病院で主に口腔外科、耳鼻咽喉科、放射線科、血液腫瘍内科のドクターに加え、口腔画像診断科、口腔病理、歯科麻酔科、薬剤師、看護師によって構成され、口腔がんに対して、連携して診察と診断と治療を行っています。
また、口腔がん治療後できるだけ早期にかつ安全に口からの食事摂取を再開し、会話機能を回復するために、歯科医師、耳鼻科医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士を含むチームによって、摂食嚥下リハビリテーションを系統的に実施しています。
口腔がんは歯科・口腔外科を標榜する歯科医院にかかり、早期発見できる場合があります。
当院では疑わしい場合は京都大学口腔外科、耳鼻咽喉科と連携しております。
著者:古田歯科医院 院長 古田 博一